※学園パロディ、自分勝手設定多数


 押し切られて勝てない


   先生のイケナイ☆放課後


 放課後の始まりを知らせるベルは鐘のように滑らかに響く。生徒を急かすばかりの忙しなさが消えた弛みにすれ違う子どもたちの顔まで違って見える。担当を持たないヴァンは他の教員の手伝いなどをしながらクラブ活動にも顔を出す。教員の中では年少になるので反りの合わない教員からの侮蔑を避けようと髭の手入れをしている。若造という罵りを躊躇させるために見た目で年齢を図らせない狙いがある。担当クラスは持たないがその分身軽でもあり、忙しくする人には重宝がられている。身についている剣道では師範の免状ももらっているから生徒たちに教えもする。強豪クラブではないから顧問にも兼任が多く、その穴埋めを半ば望みながら行っている。派閥も縄張りも組まないから生徒たちにも気楽に接する。ただ自ら慣れ合う性質ではないから人気者とはいかない。懐く生徒が何故かいるからそれで十分だとも思っている。
 あてがわれている机の上を片付ける。今日はクラブ活動に顔を出す必要もないし特に何かを手伝ってほしいとも言われていない。次の講義の準備をしてしまうとすることもない。そのまま帰ってしまえばよいのだがなんとなく校舎内を見て回る。雑用を言いつけられるときも少なくないせいか、校舎内に知らない場所はあまり無いように思った。専門教室棟はさすがに人気がない。男子校であるから時折思わぬ場面に出くわしてヴァンの方で尻尾を巻いて逃げることもある。偏見はないがこちらまで照れてしまうのは自分の未熟さだと気を落ち着ける。
 最後に剣道場の方へ向かった。校庭の端にあるために用のあるものしか向かわない。校庭では他の運動部が活動中のために端を通って大回りする。道場を体育館と兼用しないだけの実力や大人数は知らない。ヴァンが来た時にはもう剣道場は半ば過去の遺物になりつつあった。所属生徒の経歴を見れば剣道を嗜んでも学校という団体ではなくそれぞれの流派に個人で成績を残している。無理強いする気はないからますます人が寄り付かない。ヴァンが道場の手入れをし、備品を借りる。剣道場へ顔を出すのがヴァンだけの日も多い。人の住まない家屋は傷みが早いから点検も兼ねて頻繁に顔を出す。生徒が怪我でもしたら事なのだ。
 持ち出されていなかった鍵をぶらぶらさせて向かえば燃えるような緋色の髪の生徒が扉に背を預けて佇んでいた。鞄はそばへ乱暴に放り出してある。装飾やマークのたぐいが一切なく、不自然な潰れや加工もない。前髪をすべて上げている彼の気質は案外頑固で真面目だ。
「アッシュ?」
制服も着崩さす襟まで釦を留めるくせに何処かしらほつれたように乱暴さが覗く。ヴァンの姿を認めたアッシュの表情が一瞬だけ華やいだがすぐさま引き締めるようにしかめっ面になる。
「おせぇ」
言い捨てられるのをヴァンは笑って流した。古い鍵であるから鍵や扉の開け閉てだけにも塩梅が必要だ。今日は活動日ではないだろう。何気なく言った言葉にアッシュは怒ったようにそっぽを向いた。学校クラブとしては弱小になる剣道部へアッシュは何故だかよく顔を出す。
「お前も忙しいだろう」
ヴァンと親しくなった生徒たちはそれぞれに個性的にヴァンを呼ぶ。師匠と呼ぶ子もいればアッシュのようにヴァンを呼び捨てる子もいる。ヴァンもいちいち目くじら立てない。先生という呼び名がまだ馴染まないせいか不快にもならない。
 「いいんだよ、オレは次男なんだから」
アッシュはある程度高位の一族の生まれなのだが双子の兄がいる。相続は全てその兄が背負うものなのだと複雑な表情で教えてくれた。時代錯誤に感じるほどアッシュの中で長男と次男の差があるようだ。そ、そんなことよりな。ヴァン、その。珍しく言い淀むからヴァンは手を止めてアッシュの方を見た。土のついた鞄を手持ち無沙汰に提げたままで碧色の双眸がウロウロ漂う。ヴァンは言葉を淀ませるアッシュを促して道場へ上げた。道場は板張りで基本的に裸足で動きまわることを前提に作られている。靴を脱いで上がるヴァンの後ろをアッシュがもたもたと倣った。周りに文句を言われるほど鋭利な鋭さがあるアッシュにしては珍しい所作だった。首を傾げるヴァンにアッシュはその髪のように顔を赤らめる。
「ヴァン、あの、な」

「ヴァン師匠いる?」

振り絞ったらしい低音はすこしばかり高い声に塗りつぶされた。顔をのぞかせたのはルークだ。アッシュの双子の兄なのだが彼らは基本的に似ていない。弟であるアッシュのほうが分別のある行動をとるし、ルークは長男とは思えない奔放さだ。ただ双方ともに我は強い。声高に唱えるか態度で示すかの違いだけだ。
 「なんでてめぇが来るんだくそったれ野郎が! 失せろ!」
「ハァ?! アッシュこそ失せろっつーの! オレが用があんのはヴァン師匠なんだよ!」
口の悪さは似ているなどとヴァンはぼんやり思った。生来角を突き合わせてきたせいか二人の間での罵詈雑言はかなりのものになる。時折その態度で同級生に接するから取っ組み合いになったこともある兄弟だ。しかも兄弟揃って負けなしである。
「ふたりとも落ち着け」
「アッシュなんかどっかいけバーカ! バーカ!」
「ぶっ殺す…」
ルークが鞄を振り回すがアッシュのそれのほうが中身が詰まっているらしく弾かれている。教科書や帳面の量が違うのだ。ルークは試験が近づいてから荷物が増えるがアッシュはいつも一定の量を持ち帰る。
 ふたりとも諌めれば落ち着くのに今日はなぜだか二人の気が立っている。オレのほうがてめぇより先なんだよ! お前なんか待ってられるかっつーの! のろま! 取っ組み合いそうな二人の間に割って入る。どうしたふたりとも。アッシュの双眸は潤み、ルークも不服そうだ。真朱の髪と碧色の双眸。同じような色合いでも微妙に違う。そのくせ顔の造作はよく似ているから双子とはずいぶん込み入ったものだと思う。似すぎているから反発するのか、事あるごとに二人は競って諍った。
「なぁヴァン師匠、オレさ」
「師匠呼びのガキは引っ込んでろ! ヴァン、オレは」

「お前とセックスしたい!」

高低が同時に発せられて合わさった。あっけにとられるヴァンの前で二人は顔を見合わせてから爆発した。抜け抜けと何言いやがるんだこの糞野郎が! お前みたいな石頭にヴァン師匠はやらねー! てか引っ込め! こっちの台詞だこの低能野郎! だんだん聞くに堪えない悪口合戦になっていく。
「…二人して一体どうした」
座り込みそうな脱力と目眩に額を抑えて問えば案外素直に答える。だって黙ってたら師匠が他のやつのものになっちゃうかも知れねーじゃん。譲るつもりも奪われるつもりもオレにはないぞ。
 男子校へ働き口が決まった時に先に働いていた先輩に笑いながら言われた言葉がよみがえる。男子校だって? 敷居が低いから気をつけとけよ。最近の子供は色々と発育いいぞ。頭がクラクラした。百歩譲って性交渉を承諾したとすると当然役割分担が問題になるわけで。
「…さっきの発言の、意味は?」
真っ赤になるアッシュの前でルークはあっさりといった。
「オレが師匠を犯したいの」
がつんと殴りつけるアッシュにも問うた。お前も、その、私を? 真っ赤になって頷くアッシュが口走る。避妊具もちゃんとつけるぞ。本物の目眩に襲われてヴァンはその場に座り込んだ。え、ひにんぐ? ヴァンの体を気にしねぇクズが抱くとか言うなクソ。勉強してから出直せもの知らず。ルークは不満げに唸ったが黙る。交渉に及ぶに当たっての態度で至らないことだけは理解したらしい。いやそれは大事なんだが今はそうではなくて。ヴァンの思考は混乱を極めた。
 「帰れよクソ野郎」
「なっなんだよ避妊具ってゴムだろ? つけるよ!」
「勉強しろクズ」
「ヴァン師匠に教えてもらうから」
「失せろ!」
「やだよ! なぁ勉強する! 勉強するから! ヴァン師匠、いい?」
突如矛先が向いた。教えてください。肩を圧されて押し倒されていた。真朱の髪が垂れて幕のように視界を遮る。アッシュの深紅と微妙に違う色合いだ。碧色も少し硬質で髪質も固い。頬へ添えられた両手で顔が動かせない。食むようにして唇をむさぼるルークからヴァンを解放したのはアッシュだった。ごぎんと音がしそうなほど乱暴に向きが変えられて悲鳴が漏れそうだった。ちゅるりと唾液が糸をひくのをアッシュが断ち切る。固く結われた鶸茶の髪をすくように撫でてくる。アッシュの威圧とそこから覗く愛らしさにヴァンは怯んだ。無碍にはねのけるのが難しい。
「とろけんなよ、犯したくなるだろ」
やわい深紅がヴァンの頬を滑る。ぷちぷちとシャツの釦が外されていく。試すように寄せては引く瑞々しい手がヴァンの肌を撫でまわす。
 「なぁじゃあさぁ今回はやらねーから舐めていい?」
とんでもないことを言うルークの指は返事を待たずにヴァンのベルトを緩めている。アッシュは一瞬だけ逡巡した。舌打ちしてから時間をやるから勝手にしてろと言い捨てる。おっけー、とルークは軽薄に返事をする。脚の間をぬるりと掌握されてヴァンの思考が真っ白に塗りつぶされた。衝撃についていけないヴァンを双子が絶妙のタイミングでもてあそぶ。しかもこういう時ばかり息が合う。すくむヴァンをなだめてはキスを降らせて胸の先端をいじるアッシュ。ルークは子どもじみた熱心さでヴァンの脚の間へ顔をうずめて舐る。
「…ふたり、とも、ま…っ…」
涙に揺らぐ孔雀石の双眸にアッシュが怜悧に笑う。
「今日のことは絶対に忘れねぇ」
気絶してしまいたかった。


 「……ぐ…」
さんざん貫かれてしまった体を慣らそうとヴァンはしきりに屈んだり立ったりする。自分の兄に勉強しろと豪語するだけあってアッシュは準備も完璧だったがヴァンの方は不意打ちであるから違和感が残って仕方ない。そも男の体は受け身には向いてないのだ。女性のようにそのための器官があるでもない。行為が終わってから後始末をしようとする双子を蹴りだした。後始末までさせるほどヴァンは腑抜けではないしまだはりたい見栄もある。ずぶずぶと胎内の奥から脈打つ違和感に泣きたくなった。
 「よぉ、ヴァン」
すっかり日の落ちた剣道場に現れた朗らかな声にヴァンが震え上がった。練色の金髪は短い。人の好さと朗らかさで出来た青年は慣れた仕草で上がり込む。しかも戸口に鍵をかけた。
「…ガイ」
ヴァンよりいくらか年少だが面識は幼い時からある。私服なのはガイが制服を着るような学年ではないからだ。悪いと思ってたけど見てたぜ。ヴァン、モテモテじゃないか。見ていたなら止めて欲しかった。ガイはヴァンより上位のものとして紹介され接してきたから文句をいう習慣がない。ガイもそれをかさにきたりしないから友好的な関係のはずだ。
「…何故ここに」
「いやぁオレのバイト、ルーク坊っちゃんのお世話係なんだよ。帰ってこないから探しに来たんだよな」
さっさと連れ帰って欲しかった。ついでにアッシュも持って行ってくれたら良かった。
 「あのさ、ルーク坊っちゃんの家には連絡入れたんだ。今からお帰りですよって。ルークももうガキじゃないから下校に付き添いはいらないだろ? 今さぁオレ暇なんだよね」
唇が重なった。ガイの体は細いが剣道をやるから強靭だ。少し変わった流派だがその分ヴァンと力の位置が違う。ヴァンの抵抗はあっさりと流される。
「なぁヴァン、いいだろ? オレだってずっと我慢してたんだぜ?」
よりによってルークとアッシュとはな。下手に文句が言えないじゃないか。言いながらガイはさほど悩むでもない。あてつけである。
「…腰が立たなくなる」
帰宅が危うくなるのは避けたい。気分が悪くなったふりでもしてくれたら車呼んで付き添って帰ってやる。今ちょっと裕福なんでね。そのくらいの余裕はあるんだ。学校行事や講義の予定を頭のなかで考えるとガイは喉を震わせて笑った。掲示板見たぜ。何日か休校だって? クラブ活動自粛中だろ? 世間って危険だよなぁ。
 ことごとく逃げ道がない。ため息をつくヴァンにガイは甘く歯を立てる。
「手加減してくれ」
「ヴァンの年齢を判らなくさせてるのは髭じゃなくてそういうところだと思うがね」
イケナイコトしてる気になるなぁ。しているのだと思ったが言わない。ふてくされるような態度にガイは楽しげにコロコロ笑う。なんだよかわいいなぁ。

日が落ちるまで体温が隣に居た。


《了》

題名の発案は身内で、しかも内容より先に題名が決まってた!
どうしてこうなったwwww                    2014年6月7日UP

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